エントリーは7月。受付最終月でTLに情報が回ってきて、もうそんな季節かと思った記憶。今まで何かしら年一でトレラン系のイベントに出ることを心掛けていたけれど、それもOMM出てればまぁそれっぽい感じになるので純粋なトレランレースじゃなくても、な気持ちがあった。ただ、トレランレースにそんなに出ているわけではなく、専業でもないので出場経験もそこまでない。代表的なところで言えば50km超が2本(志賀高原エクストリームトレイル、奥信濃100の50)くらいなもので、そろそろ自分の限界を押し上げる時なのではという燻った想いもどこか持っていた。失礼ながら、当たったら縁があったものとして挑戦してみよう、当たらなければそういうことだったのだろう、の割り切りでエントリーボタンをポチッと押した。当選が発表され、「まじかぁ」と苦笑いと共に独りごちる。
体が一つしかないのがいけない、もとい楽しいことが多すぎてあれもこれもやりたい、秋冬にかけては山屋諸氏におかれては割とそんな人が多そうな気がする。スラブ沢で沢納めしている人もいればクライミング全振りマンになって成果を上げている人もいるし、アルプスの標高帯の駆け込み需要も著しい。11月も末となれば”秋立”と呼ばれる立山の降雪で滑走シーズンが幕を開ける。目移りするものが多い中、クライミングのお誘いもやんわり断りつつランに専念しないといけなくなる。これが非常に心苦しい。元々専業の方であればそこまでの誘惑がないのかもしれないが、アクティビティつまみ食い協会会員としてはバランスが難しいのだ。両立などというぬるいことを言っていると、それぞれが疎かになり結果として満足のいく楽しみ方がどっちでも得られなかったりする。選択と集中、軸足をどこに置くかという葛藤の中、大会までの日々を過ごした。
一ヶ月前のOMMでも感じたことだが、伊豆半島は暖かい。大会当日は稜線はかなり強い風で、4時過ぎの仁科峠では気温0℃、強風波浪注意報が発令されていた。スタート地点の松崎新港でも海が白波立っている様子がうっすら見え、まーたコンディション荒れてるのを愉しむ感じかいな!と変なテンション上がり気味。フォロワーさん達と会うことができ、とりあえず一緒にスタートまで。
スタートはおそらく申告ベースのフィニッシュタイム順で選手番号が振られていて、A,B,Cのウェーブに分かれる。ぼくはBウェーブで、Aウェーブが出走した後から出走。ヘッドライトの灯りと共に一斉に走り始めるこの感じ、初めての体験な気がする。長距離の大会に出場しているんだということを嫌でも自覚させられるのだ。脚が速くないので行きも帰りも暗い時間であることは大体見当がついているものの、改めてそれに思い当たるとなかなか堪える。
長い1日が始まった。
(引用元:https://www.izutrailjourney.com/jptop/course/)
コースの累積標高を見てみよう。
69kmで3,242mD+と、トレランレースとしてはそんなに多い方ではなく、どちらかというと走らされるレースという印象を持つランナーが多いことだろう。コース前半はほとんどがロードと林道を登り調子で走ることになる。ただ細かいアップダウンは多く、繰り返される登りと下りに対応する必要がある。八瀬峠くらいまでほんとに全然ランナーが散らばらず、ほぼほぼ集団で走っていた気がする。70kmのトレランレースともなると、何となくでエントリーしている人はやはり減り、きちんと準備してきてる人が多いということだろう。26km地点の第一エイドであるこがね橋に降りてきた時には、すでに沢山のランナーが補給を受けており、ひっきりなしにエイドに入る人と出る人がすれ違う。コーラやバナナ、地元の和菓子など、一つ目のエイドなので内容は少し控えめな印象。ここからITJ最高地点である猫越岳(ねっこだけと読む。可愛い)へ600mの登高をこなさなければならない為、用意していた不揃いバウムもここで頬張る。林道の登りからトレイルへと少しずつ道が変わり、ようやく山に入った感じがしてきた。伊豆山稜線はまだ遠い。
ITJ最高地点の猫越岳を過ぎ、仁科峠への下に入るとようやく景色が一変。木々の背が低くなってきた伊豆山稜線歩道を進む。展望がパッと開け、沼津湾や富士山が一望できる伊豆トレイルジャーニーのハイライトに突入した感があった。第二エイドの仁科峠までダラダラと降って行き、ほっと一息。仁科峠時点で40km、早くもフルマラソンの距離に迫る。そう考えるとめちゃくちゃ大変なように感じるが、フルマラソンほどプッシュし続けているわけではないため、疲れ果てている感じじゃない。それにしてもあとここから30kmあるのかぁ、完走できるんか??という疑念の方が大きくなってきた。仁科峠時点でのタイムは6:16:23。スタートが朝6時なので12時を回っている。これはヘッデン下山確定だなぁと思いつつ、トイレを済ませて補給に勤しむ。前日受付を一緒に済ませたフォロワーとここで遭遇。まだまだ元気そうでやるなぁとなりながら出発を見送った。
膝が痛い。左足の膝のお皿のちょうど内側がなんだか知らんけどめっちゃ痛む。この辺りからあからさまに左足を庇いながらのレースになった。アップダウンを繰り返し船原峠まで標高を落とし、土肥駐車場の第三エイドに上がった時にはもう大休憩が必要だと思わずパイプ椅子に座り込んだ。足をよく揉みほぐし、達磨山を越えて修善寺へ下る準備をする。あと18kmほど。まだ18kmもある。膝を痛めている状態でしかも下り基調の1番嫌な庇い方をしながら歩を進める必要があった。心を無にしてひたすら足を前に進める機械に徹する。早く終わらないかなの気持ちが8,9割を占める中、どこから湧いたのかもう終わっちゃうのかという気持ちもあった。過去に達磨山は訪れたことがあったためここからは既視感での飽きと修善寺まで降りるモチベの無さとの戦い(要するに自分との戦い)が始まる。メンタルで走ってるに等しいものの、やはり終わってしまう寂しさはどんなレースでも感じることができるのかもしれない。山を下り切ってからもゴールまでの長いロードを耐えきり、這々の体で修善寺のゴールテープを切った。